うに、誠実のこもった声で、
「先夜、武蔵屋で、お浦と申す女子を手に入れたよう申したが、これも嘘じゃ! ……拙者に関する限り、お浦という女は純潔じゃ! ……本来、拙者は女嫌いでな。いわば女性嫌忌性なのじゃ!」
(それにしても)
と、左門は、自分で自分を疑った。
(どうして、こう、俺は素直な気持ちになったのであろう。……先夜は、頼母めを苦しめようために、手を触れさえしなかったお浦という女を、手に入れたなどと偽《いつ》わり云ったのに。……いまに至ってそれを取り消すとは)
――左門には、その理由がわからなかったが、しかし、その理由は、栞というような、本当に無邪気な、純な処女と、罪のない、子供同士のような話をし、腹の底から笑ったことが影響し、彼の心が、人間本来の「善」に帰ったからであるかもしれない。
「動くか、頼母!」
しかし、突然、左門は一喝し、グルリと体を廻し、紙帳の、側面の方へ向き、刀を差し付けた。
「紙帳の内と外、見えぬと思うと間違うぞよ。……紙帳の中にいる左門こそ、不動智の位置にいる者じゃ。左へも右へも、前へも後へも、十方八方へ心動きながら、一所へは、瞬時も止まり居坐らぬ心の持ち主じゃ。眼光《め》は、紙背に徹するぞよ! ……嘘と思わば証拠を挙げようぞ。……汝、今、紙帳より一間の距離《へだたり》を持ち、正面より側面へ移ったであろうがな。……現在《いま》は同じく一間の距離を持ち、紙帳の側面、中央《なかば》の位置に立ち、刀を中段に構え、狙いすましておろうがな。……動くか!」
と、またも大喝し、左門は、グッと左へ体を向け、紙帳の背面へ刀を差し付けた。
紙帳は、二人を蔽うて、天蓋のように、深く、静かに、柔らかく垂れていた。縦縞のように、時々襞が出来るのは、風が吹きあたるからであろう。
ここは紙帳の外である。――
頼母は、刀を中段に構え、紙帳から一間の距離を保ち、紙帳を睨《にら》んで突っ立っていた。全身汗を掻き、顔色蒼褪め、眼は血走っていた。お浦と典膳とを戸板に載せ、五郎蔵の乾児二人に担がせ、ここまで走って来た頼母であった。見れば、林の空地に、見覚えのある、五味左門の紙帳が釣ってあった。驚き喜び、宣りかけたところ、意外も意外、恋人栞が、その中にいて、声を掛けたとは! ……それが、殺人鬼のような左門の手中にあって、身うごきが出来ずにいるとは!
これだけでも頼母は、
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