いていたが、曲げた肘の附け根などは、円く軟らかく、薄桃色をなし、珠のようであった。
 この頃、五味左門が身を隠していた、例の農家の、街道に添った納屋には、陽がなんどり[#「なんどり」に傍点]と、長閑《のどか》にあたっていた。
 この辺の農家の誇りの一つとすることに、大きな納屋を持つということがあった。それは、鋤や鍬などの農具を、沢山に持っているということの証拠になるからであった。それでこの納屋も、土蔵ほどの大きさを持ってい、屋根に近い位置に、四角の窓を一つ穿《うが》っていた。その屋根に雀が停まっていて、羽づくろいし、その裾を、鼬《いたち》が、チョロチョロと徘徊していたが、これは赤黄色い土壌《つち》と、灰色の板とで作られているこの納屋を、大変詩的な存在にしていた。
 と、一人の武士が、刀の鞘を陽に照らし、自分の影を街道に落としながら、納屋の方へ歩いて来た。伊東頼母であった。頼母はあの夜、敵五味左門を取り逃がしたので、それを探し出し、敵《かな》わぬまでも勝負しようと、武蔵屋を出《い》で、府中をはじめ、近所のそちこちを、今日まで三日間さがし廻った。だが左門の行衛《ゆくえ》は知れなかった。そこで一旦、飯塚薪左衛門の屋敷へ帰ろうと、今この街道を歩いて来たのであった。飯塚家へ帰るということは、彼にとっては喜びであった。恋人の栞と逢うことであるから。過ぐる夜、あの屋敷の庭で、純情の処女、栞と、手を取り交わして以来、栞が、何んと烈しく、一本気に、頼母を愛し出したことか。その愛の烈しさに誘われて、頼母も、今は、燃えるように、栞を愛しているのであった。その栞と逢えるのだ! 頼母は幸福で胸が一杯であった。武蔵屋での苦闘と、三日間左門を探し廻った辛労とで、頼母は少し痩せて見えた。頤など細まり、張っていた肩など、心持ち落ちたように見えた。
「や、これは!」
 と、頼母は、納屋の前へさしかかり、何気なく窓を見上げた時、驚きの声をあげて足を止めた。窓にも陽があたっていて、明るかったが、納屋の内部は暗いと見え、窓の向こう側は闇であった。その闇を背後にして、明るい窓外に向き、一つの男の首級《なまくび》が、頼母の方へ顔を向けているではないか。陽のあたっている窓の枠を、黄金色《きんいろ》の額縁とすれば、窓の内部の闇は、黒一色に塗りつぶされた背景であり、そういう額の面に、男の首級《くび》一個《ひとつ》が、
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