の一団の姿が、母屋の蔭になっていて、見えなかったからである。
(どっちみち油断はならない)
こう思った。
やがて彼は、記憶に残っている、かつての夜、紙帳を釣って寝た、道了塚近くの林へ来た。
突然彼は足を止め、茫然として前方を見据えた。無数の血痕を附けた、紛れもない自分の紙帳が、林の中の空地に釣られてあるではないか。紙帳は、主人に邂逅《めぐりあ》ったのを喜ぶかのように、落葉樹や常磐木《ときわぎ》に包まれながら、左門の方へ、長方形の、長い方の面を向け、微風に、その面へ小皺を作り、笑った。
左門は、紙帳が、どうしてこんなところへ来ているのか、誰が紙帳を釣ったのか? と、一瞬間不思議に思ったが、それよりも、恋していると云ってもよいほどに、探し求めていた巣を――紙帳を、発見したことの喜びに、肌に汗がにじむほどであった。
彼は、何をおいても、紙帳の中へはいり、この平和を失った、イライラしている心持ちを鎮めたいと思った。
彼は、声をさえ発し、紙帳へ走り寄った。それが生物《いきもの》であったならば、彼は紙帳を抱き締めたであろう。彼はやにわに紙帳の裾をかかげた。
「あッ」
彼は驚きで胸を反らせた。
新鮮な果実《このみ》
紙帳の中に、彼の眼前に、彼以外の紙帳の主がいるではないか。そう、紙帳を箱とすれば、箱へ納まった京人形のように、一人の美しい娘が、謹ましくはあったが、充分|寛《くつろ》いだ姿で、安らかに、長々と寝て、眠っているではないか。
(無断で俺の巣へ入り込んだ女め!)
憤怒《いかり》が勃然《ぼつぜん》と左門の胸へ燃え上がった。
(だが、女だ、綺麗な娘だ!)
左門の、少し黒ずんで見えていた唇へ、赤味が注《さ》し、眼へ光が射した。
左門は紙帳の中へはいった。彼は娘の顔をつくづくと見た。
(見覚えがある。飯塚薪左衛門の娘、栞だ!)
事の意外に左門はまたも驚いた。
過ぐる夜、飯塚家へ泊まった時、挨拶に出た栞という娘が、この紙帳の中に眠っていようとは!
(不思議だなア)
左門は両眉の間へ皺を畳んだ。
(しかし、栞であろうと誰であろうと……)
左門は、やがて地に腹這い、蛇が鎌首を持ち上げるように、首を上げ、頤の下へ両手を支《か》い、栞の姿をながめていた。栞は、そんなこととも知らず、片腕を枕にして、眠りつづけていた。友禅の襦袢の袖から、白い滑かな腕が覗
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