の死骸かのように、一張の紙帳が、ベッタリと地に、張り付いていたからである。
「紙帳だよ、……まあ紙帳!」
どうしてこんな林の中などに紙帳が落ちているのか、不思議でならなかったが、それと同時に、数日前、自分の屋敷へ泊まった五味左門と云う武士が、部屋へ紙帳を釣って寝、その中で、同宿の武士を殺傷したことを思い出した。
(その紙帳ではあるまいか?)
(まさか!)
と思い返したものの、気味が悪かったので、栞は立ち去ろうとした。しかし、紙帳とか蚊帳《かや》とかを見れば釣りたくなり、布団を見れば敷いてみたくなるのが女心で、栞も、その心に捉《とら》えられ、立ち去るどころか、怖々《こわごわ》ではあったが、あべこべに紙帳へ近寄った。紙帳には、泥や藁屑が附いていた。そうして血痕らしいものが附いていた。
(気味が悪いわ)と栞は、またも逃げ腰になったが、でも、やっぱり逃げられなかった。
短く切られてはいたが、紙帳には、四筋の釣り手がついていた。
いつか栞は、その釣り手を、木立ちにむすびつけていた。
間もなく紙帳は、栞の手によって、空地へ釣られ、ところどころ裂《さ》け目を持ったその紙帳は、一杯に春陽を受け、少し弛《だ》るそうに、裾を地に敷き、宙に浮いた。
(この中で寝たら、どんな気持ちするものかしら?)
この好奇心も、女心の一つであろう。
栞は、紙帳の中へはいろうとして、身をかがめ、その裾へ手をかけた。
しかし栞よ、その紙帳こそは、やはり、五味左門の紙帳なのであり、三日前の夜、風に飛ばされて、ここまで来たものであり、そうして、その中へはいったものは、男なら殺され、女なら、生命《いのち》より大切の……そういう紙帳だのに、栞よ、お前は、その中へはいろうとするのか?
そんなことを知る筈のない栞は、とうとう紙帳の中へはいった。
処女の体を呑んだ紙帳は、ほんのちょっとの間、サワサワと揺れたが、すぐに何事もなかったように静まり、その上を、眼白や頬白が、枝移りしようとして翔《か》けり、その影を、刹那刹那《せつなせつな》映した。
戸板の一団
ちょうどこの頃のことであるが、この林から一里ほど離れた地点《ところ》に、だだっ広い前庭を持った一構えの農家が立ってい、家鶏《にわとり》の雛《ひな》が十羽ばかり、親鶏の足の周囲を、欝金色《うこんいろ》の綿の珠が転がるかのように、めまぐるしく
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