、今は額に押し当て、沈痛に肩を縮め、全身をガタガタ顫《ふる》わせた。
(声の秘密を解かなければならない! どうあろうと解かなければならない!)
その声はまたも岩の下から、いや、岩の下の地の底から、一本の銀の線かのように、土壌《つち》を貫き、岩を貫いて聞こえて来た。
「秘密は剖かない! 裏切りはしない! 助けてくれーッ」
(あの声は、渋江典膳の声ではない! しかし典膳と一緒に働いていた男の声だ!)
薪左衛門は呻いた。
栞の発見した物
この頃栞は、林の中を逍遙《さまよ》っていた。
父親の乱心が癒ったことと、恋人の頼母が、今日あたり帰って来るだろうという期待とで、彼女の心は喜悦《よろこび》と希望《のぞみ》とに燃えているのであった。
(頼母様といえば、あのお方とはじめてお逢いしたのは、道了様の塚の裾辺りだったっけ)
栞は、過ぐる日、気絶していた頼母を、この手で介抱して、蘇生させたことを思い出した。
(妾、あの方の命の恩人なのよ。……頼母様、妾を粗末にしてはいけないわ)
つい心の中で甘えたりした。
林の中は、光と影との織り物をなしていた。木々の隙を通って、射し込んでいる陽光《ひかり》は、地上へ、大小の、円や方形の、黄金色《こがねいろ》の光の斑を付け、そこへ萠え出ている、菫《すみれ》や土筆《つくし》や薺《なずな》の花を、細かい宝石のように輝かせ、その木洩《こも》れ陽《び》の通《かよ》い路《じ》の空間に、蟆子《ぶよ》や蜉蝣《かげろう》や蜂が飛んでいたが、それらの昆虫の翅や脚などをも輝かせて、いかにも楽しく躍動している「春の魂」のように見せた。
心に喜悦を持っている栞は、何を見ても楽しかった。
栗や柏や楢などが、その幹や枝に陽光を溜め、陽光の溜っている所だけが、生き生きと呼吸しているように見えるのも、蕾を沢山持った山吹が、卯木《うつぎ》と一緒に、小丘のように盛り上がってい、その裾に、栗色の兎が、長い耳を捻るように動かしながら、蹲居《うずくま》ってい、桜実《さくらんぼ》のような赤い眼で、栞の方を見ていたが、それも栞には嬉しくてならなかった。
栞は木々を縫って目的《あて》なく彷徨《さまよ》って行った。
一つの林が尽き、別の林へはいろうとする処に、木立ちのない小さい空地があり、そこまで来た時、
「あれ」と云って、栞は足を停めた。
その空地に、巨大な白蝶
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