へ行こう! 明日にも行こう」
 秀次は決心をしたのである。
 と、幸蔵主の眼の中へ、憐愍の情がチラツイたが、直ぐにさり[#「さり」に傍点]気なく消してしまった。
 二人はしばらく無言であった。
 と、聚楽第の一所から、人が斬られでもしたような、悲鳴が一声聞こえてきた。
 不意に立ち上った幸蔵主は、スルスルと、欄干の側《そば》へ行った。で、悲鳴のした方を見た。
 主殿《おもや》と廻廊でつながれている奇形な建物の方角から、どうやら悲鳴は聞こえたらしい。
 で、そっちへ眼をやったが、
「今夜はこれで三人斬られた。……それにしても奇形な建物は、何を入れて置く建物なのであろう?」


この部屋は?

 奇形な建物の内部の一間で、老婆が喋舌《しゃべ》りながら歩いている。
「最初は誰も彼もがんばり[#「がんばり」に傍点]ますよ。でもこの部屋へ押し入れられて、ものの五日と経たないうちに、大概は往生をしますよ。そうして今度は自分の方から、懇願をするようになりますよ。お側へ行かせて下さいましと。……だからお前様におかせられましても、もうもうそれこそ間違いなく、この部屋をお出し下さいまし、関白様のご寝所へ、
前へ 次へ
全79ページ中56ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング