が才幹を愛して、召しかかえたこともあったけれど、朋輩との中が円満にゆかない。
で、すぐに浪人をした。それを知った木村|常陸介《ひたちのすけ》は、何かの用に立つこともあろうと、莫大な捨扶持を施して、ここ二三年養って置いた。
すると五右衛門のことである、常陸介を主人と崇《あが》むべきを、友人のように思ってしまって、対等の交際《つきあい》をやり出した。
大概の人物なら怒ったであろう、ところが常陸介は大人物であった。そのようなことは意にもかけずに、同じように対等の交際をした。これが五右衛門には嬉しかったらしい。知己を得たような気持がした。で、非常に感激をして、この人のためなら死んでもよいと、そんなようにさえ思うようになった。
で、今度も常陸介から、伏見城の様子を探ってくれと、こう頼まれたのに直ぐに応じて、その役目を果たしたのであった。
ところがもう一度伏見城へ忍んで、秀吉の寝首を掻いてくれという。――これには豪快な石川五右衛門も、考え込まざるを得なかった。
で、即答をすることが出来ない。腕を組んだまま黙っている。
が、木村常陸介が、低くはあったが凄愴の口調で、次のようなことを云っ
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