差し出すに相違ない。承知かない場合には攫って来る」
間違いはないよと云うように、小四郎は額をこする[#「こする」に傍点]ようにしたが、果たして成功するであろうか?
巨人と怪人
その日からちょうど二日経った。
ここは聚楽の奥庭である。おりから深夜で月はあったが、植え込みが茂っているために、月の光が遮られている。
一宇の亭《ちん》が立っていて、縁の一所が月光に濡れて、水のように蒼白く暈けていた。
そこに腰をかけている武士がある。
思案にあまったというように、胸の辺りへ腕を組んで、じっと足許を見詰めている。
木の間をとおして聚楽第の、宏壮な主殿《おもや》が見えていたが、今夜も酒宴と思われて、陽気な声が聞こえてくる。間毎々々《まごとまごと》に点もされた燈《ひ》が、不夜城のようにも明るく見える。
「どうしたのだろう、遅いではないか」
縁に腰をかけた大兵の武士は、誰かを待ってでもいると見えて、ふとこう口に出して呟いた。
と、その呟きに呼ばれたかのように、巨大な蘇鉄の根元を巡って、小兵の武士があらわれた。
「木村殿かな? 常陸《ひたち》殿かな」
「おお五右衛門か、待ちかねてい
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