た。
「幸蔵主殿は私用とのことで、何も恐れるには及ばない。それに我君と幸蔵主殿とは、幼少の頃からのご懇親で、万事につけて聚楽のお為を、以前からお計らい下されて居られる。悪いようには覚し召すまい」
「いやいや一考する必要がある」
 こう意議[#「意議」はママ]をはさんだ武士があった。加嶋欽作《かしまきんさく》という若武士である。
「女ながらも幸蔵主殿は、太閤殿下の懐中《ふところ》刀で、智謀すぐれて居られるとのこと、なかなか油断は出来ますまい」
「それに」ともう一人が心配そうにした。山崎|内膳《ないぜん》という若武士である。
「ご宿老の木村|常陸介《ひたちのすけ》様が、幸蔵主殿のおいで以来、気鬱のように陰気になられた。その常陸介殿はどうかというに、智謀逞邁、誠忠無双、容易に物に動じないお方だ。そのお方が陰気になられたのだ。幸蔵主殿の聚楽参第は、単なる私用とは思われない」


聚楽第の秘密

 そもそも幸蔵主とは何者であろうか? 豊臣秀吉の大奥に仕えてそれの切り盛りをしているところの、いうところの老女であった。女ながらもずば抜けた知恵者で、一面権謀術数に富み、一面仁慈寛大であった。加藤清正や
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