が、切り返そうとは思わなかった」
「それに第一秋元めは、どうして俺達の忍び込んだことを、感付いたものか合点がいかない」
「随分上手に忍び込んだのだが」
「のっそりと秋元が現われた時には、さすがに俺もギョッとしたよ」
「秋元め随分冴えた腕だの」
「一刀に鴨丸を斃したのだからな」
「仰天して俺達は逃げ出したが、いつまでもマゴマゴしていようものなら、やっぱり秋元に切られたかも知れない」
「切られないまでも捕らえられでもしたら、それこそ本当に目もあてられない」
「何と云ったところで若い娘を、引っ攫おうとしたのだからな」
「いぜん娘は北畠の邸に、身をかくしているということだ」
「外出などもしないそうだ」
「つまりは守られているのだろう」
 不破小四郎の邸の一間で、四五人の若い武士《さむらい》達が、雑然として話している。
 宵を過ごした初夏の夜で、衣笠《きぬがさ》山の方へでも翔《か》けるのであろう、杜鵑《ほととぎす》の声が聞こえてきた。
 小四郎は秀次《ひでつぐ》の寵臣である。邸なども豪奢である。銀燭などが立ててある。
 その銀燭を左手へ置いて、上座の円座に坐っているのは、邸の主人の小四郎で、前髪
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