身をひるがえした秋安は、太刀を抜いたが横ッ払った。殺しては後が面倒だ、そう思ったがためであろう、腰の支《つがい》を平打ちに一刀!
「ウ――ム」と呻いてぶっ仆れる。
 と、懲りずまにもう一人が、刎ねるがように切り込んで来た。
 すかさず突き出した秋安の太刀に、ガラガラガラと太刀を搦らまれ、ギョッとして引こうとしたところを、秋安太刀をグッとセメ[#「セメ」に傍点]た。ガラガラと地上で音のしたのは、敵が獲物を落としたからである。
「これ!」と叫ぶと秋安は、五人をツラツラと見渡したが、
「不破小四郎と申したな! 誰だ、どいつだ、進み出ろ! この秋安一見したい! 少しく拙者には怨みがある」
 ここで一人へ眼をつけたが、
「ははあ貴殿か! 貴殿でござろう!」
 そっちへツカツカと歩み寄る。
 歩み寄られた若侍は、いかさま不破小四郎でもあろう、一際目立つきらびやか[#「きらびやか」に傍点]の風で、そうして凄いような美男であった。
 が、案外な卑怯者らしい。太刀こそ抜いて構えてはいるが、ヂタ、ヂタ、ヂタと後へ引く。
 秋安にとっては怨敵である。萩野を奪われた怨みがある。
「こいつばかりは叩っ切ってやろう!」
 で、ツツ――ッと寄り添った。
 主人あやうしと見て取ったものか、二人の武士が左右から、挿むようにして切り込んで来た。
 と、鏘然たる太刀の音!
 つづいて森の木洩陽を縫って、宙に閃めくものがあった。払い上げられた太刀である。
 すなわちは北畠秋安が、一人の武士の太刀を払い、そうして直ぐにもう一人の太刀を、宙へ刎ね上げてしまったのである。
 と、逃げ出す足音がした。
 主人の小四郎を丸く包み、五人の武士が太刀を拾わず、森から外へ逃げ出したのである。
「待て!」と秋安は声をかけたが、苦笑いをすると突立った。
「追い詰めて殺すにも及ぶまい。祟りのほどがうるさいからなあ」
 で、抜いた太刀を鞘へ納め、パチンと鍔音を小高く立てたが、改めて娘の様子を見た。
 木洩陽を浴びて坐っている、廻国風の娘の顔の、何と美しく気高いことよ!
 そうしてこれほどの闘いにも、大して恐れはしなかったと見えて、別に体を顫わせてもいない。
 とは云え勿論顔の色は、蒼味を加えてはいるのである。
「ほう」
 秋安が声を上げたのは、その美しさと気高さとに、心を驚かせたからである。
 恋を失った秋安は、どうやら意
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