烈しい感情の昂奮から、忍び泣きの音を洩らしている姿は、美しくもあれば妖しくもあった。
築山の裾に茂っているのは、満開の花をつけた連翹《れんぎょう》の叢《くさむら》で、黄色いその花は月光に化かされ、卯の花のように白く見えていたが、それが二人の女を蔽うように、背後《うしろ》の方から冠さっていた。
「お葉や! おおおおその姿は! ……猿廻しのその姿は! ……別れてから経った日数は十年! ……その間中わたしは雨につけ風につけ、一日としてお前のことを、思い出さなかったことはなかったのに! ……高麗郡《こまごおり》の高麗家と並び称され、関東での旧家と尊ばれている、荏原《えばら》郡の荏原屋敷の娘が、猿廻しにおちぶれたとは! ……話しておくれ、その後のことを! 話しておくれ、お前の身の上を!」
妹お葉の背へ両手を廻し、それで抱きしめ抱きしめながら、喘ぐようにあやめ[#「あやめ」に傍点]は云うのであった。
「お姉様、あやめ[#「あやめ」に傍点]お姉様!」と、姉の胸の上へ顔を埋め、しゃくりあげながらお葉は云った。
「十年前に……お姉様が……不意に家出をなされてからというもの……わたしは、毎日、まアどん
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