「つい」に傍点]今しがた同じ姿で、土塀を乗り越えてこの構内へ、潜入をしたはずだのに、今見れば町家の女房風の、浪速あやめ[#「あやめ」に傍点]としてここにいるとは?
短かい短かい時間の間に、あるいは女猿廻しお葉となり、あるいは曲独楽使いのあやめ[#「あやめ」に傍点]となる! この女の本性は何なのであろう?
正体不可解の浪速あやめ[#「あやめ」に傍点]は、石橋の袂[#「袂」は底本では「袖」]に佇みながら、頭巾と肩とをわけても鮮かに、月の光に曝しながら、正面に見えている建物の方を、まじろぎもせず眺めていたが、やがてその方へ歩き出した。
と、築山の裾を巡った。
とたんに彼女は「あッ」と叫んで、居縮んだように佇んだ。同時に彼女の正面からも、同じような「あッ」という声が聞こえた。見ればそこにも女がいて、あやめ[#「あやめ」に傍点]の顔を見詰めながら、居縮んだように立っている。それは女猿廻しのお葉であった。
おお、では二人のこの女は、別々の女であるのだろうか! そうとしか思われない。
それにしても何と二人の女は、その顔立から肉付から、年恰好から同一《おんなじ》なのであろう! そうして何と
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