で、刺すように頼母を睨むばかりであった。
そういう主税を取り囲んで、まだ覆面を取らない五人の浪人は、すわといわば主税を切り伏せようと、刀の柄へ手をかけている。飛田林覚兵衛は例の気味の悪い、星の入っている眼を天眼に据えて、これも刀の柄へ手をかけながら、松浦頼母の横手から、主税の挙動を窺っていた。
部屋の気勢《けはい》は殺気を帯び、血腥い事件の起こる前の、息詰るような静寂《しずけさ》にあった。
「そうか」と頼母はやがて云った。
「物を云わぬな、黙っているな、ようし、そうか、では憂目を!」
覚兵衛の方へ顔を向け、
「こやつにあれ[#「あれ」に傍点]を見せてやれ!」
覚兵衛は無言で立ち上り、隣室への襖《ふすま》をあけた。
何がそこに有ったろう?
猿轡をはめられ腕を縛られ、髪をふり乱した腰元のお八重が、桔梗の花の折れたような姿に、畳の上に横倒しになってい、それの横手に蟇《ひき》かのような姿に、勘兵衛が胡座《あぐら》を掻いているのであった。
「お八重!」と思わず声を筒抜かせ、主税は猛然と飛び立とうとした。
「動くな!」と瞬間、覆面武士の一人が、主税の肩を抑えつけた。
「お八重、どうして
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