、
「これが二つ目の淀屋の独楽じゃ。以前は田安殿奥方様が、ご秘蔵あそばされていたものじゃ。が、拙者代わりの品物を作り、本物とすり換えて本物の独楽は、疾《とく》より拙者所持しておる。――と、このように秘密のたくらみ[#「たくらみ」に傍点]まで、自分の口から云う以上、是が非であろうと其方《そち》の所持しておる独楽を、当方へ取るという拙者の決心を、其方といえども感ずるであろうな。隠し立てせずと独楽を渡せ! ……おおそれからもう一つ、其方に明かせて驚かすことがある。其方を襲った飛田林覚兵衛、此処におる覚兵衛じゃが、これは実はわし[#「わし」に傍点]の家来なのじゃ」
「左様で」と初めて飛田林覚兵衛は、星の入っている薄気味悪い眼を、ほの暗い燭台の燈に光らせながら、
「拙者、松浦様の家来なのだ。淀屋の独楽を探そうため、浪速くんだりまで参ったのじゃ。浪速あやめ[#「あやめ」に傍点]が独楽を持っていた。で、取ろうといたしたところ、あの女め強情に渡しおらぬ。そのうち江戸へ来てしまった。そこで拙者も江戸へ帰って、どうかして取ろうと苦心しているうちに、チョロリと貴殿に横取りされてしまった。と知った時松浦様へ、
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