すぐご報告すればよかったのだが、独楽を探そうために長の年月、隠れ扶持をいただいておる拙者としては、自分の力で独楽を手に入れねばと、そこで貴殿を襲ったのじゃが、ご存知の通り失敗してしもうた。そこでとうとう我を折って、今夜松浦様へ小鬢を掻き掻き、つぶさに事情をお話しすると、では主税めを捕らえてしまえとな。……で、こういう有様となったので」
「主税」と今度は松浦頼母が、宥めすかすように猫撫声で云った。
「淀屋の財宝が目つかった際には、幾割かの分はくれてやる。その点は充分安心してよろしい。だから云え、どこにあるか。淀屋の独楽がどこにあるか。……それさえお前が云ってくれたなら、人を遣わして独楽を持って来させる。そうしてそれが事実淀屋の独楽であったら、即座に其方《そち》の縄目を解き、我々の同士の一人として、わしの持っている独楽へ現われて来る隠語を、早速見せても進《しん》ぜるし、二つの独楽をつき合わせ、互いの隠語をつなぎ合わせ、淀屋の財宝の在場所を調べるその謀議にもあずからせよう」
「黙れ!」と主税は怒声を上げた。
「逆臣! いや悪党!」
乱れた鬢髪、血走った眼、蒼白の顔色、土気色の口、そういう形
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