いる光景を、薄暗い燭台の黄色い光が朦朧として照していた。
それにしてもどうして山岸主税が、こんな所に縛られているのだろう?
そうして何故に飛田林覚兵衛が、こんな所へ現われて、松浦頼母の家来かのように、悠然と控えているのだろう?
悪家老の全貌
お茶の水で飛田林覚兵衛《とんだばやしかくべえ》に襲われ、浪速《なにわ》あやめ[#「あやめ」に傍点]に助けられ、そのあやめが雇ってくれた駕籠で山岸主税《やまぎしちから》は屋敷へかえって来た。
すると、屋敷の門前で、五人の覆面武士に襲撃された。まだ主税は身心衰弱していたので、他愛もなく捕らえられ、目隠しをされて運ばれた。
その目隠しを取られたところが、今居るこの部屋であり、自分の前には意外も意外、主家の奥家老である松浦頼母と、自分を襲った浪人の頭、飛田林覚兵衛がいるではないか!
夢に夢見るという心持、これが主税の心持であった。
「主税」と頼母は威嚇するように云った。
「淀屋の独楽を所持しおること、飛田林覚兵衛より耳にした。その独楽を当方へ渡せ!」
それから頼母は自分の膝の上の独楽を、掌《てのひら》にのせて見せびらかすようにしたが
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