ったお方は、このご老人の他にはない。このお方がきっとお祖師様なのだよ)
(でも妾《わたし》は一生の大事業の、その小口に取りかかったのに、こんなお爺さんと連立って、こんなお話をして歩くなんて、よいことだろうか悪いことだろうか?)
こうも彼女には思われるのであった。
三人は先へ進んで行った。
やがて、四辻の交叉点へ出た。
それを左の方へ曲がりかけた時、右手の方から一隊の人数が、粛々とこっちへ歩いて来た。
根元の辺りを菰《こも》で包んだ、松だの柏だの桜だの梅だの、柳だの桧だのの無数の植木を、十台の大八車へ舁《か》き乗せて、それを曳いたりそれを押したり、また左右に付添ったりして、四十人ほどの植木師らしい男が、こっちへ歩いて来るのであった。深夜だから音を立てまいとしてか、車の輪は布で巻かれていた。植木師の風俗も変わっていた。岡山頭巾で顔をつつみ、半纏の代わりに黒の短羽織《みじかばおり》を着、股引の代わりに裁着《たっつけ》を穿《は》き、そうして腰に一本ずつ[#「一本ずつ」は底本では「一本づつ」]、短い刀を差していた。
車の上の植木はいずれも高価な、立派な品らしく見受けられたが、往来《み
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