ち》の左右の海鼠壁よりも高く、月夜の空の方へ葉や枝を延ばし、車の揺れるに従って、それをユサユサと揺する様子は、林が歩いてでも来るようであった。
 その一隊が三人の前まで来た時、手を左右に振りながら、警戒するように『叱《しっ》!』と云った。近寄るなとでも云っているようであった。
「叱!」「叱!」と口々に云った。
 一隊は二人の前を通り過ぎようとした。
 すると、この辺りの屋敷へ呼ばれ、療治を済ませて帰るらしい、一人の按摩が向う側の辻から、杖を突きながら現われたが、その一隊の中へうっかりと入った。
「叱《しっ》!」「叱《しっ》!」という例の声が、植木師の声などとは思われないような、威嚇的の調子をもって、一際高く響きわたり、ふいに行列が立ち止まった。
 数人の植木師が走って来て、一所へ集まって囁き合い、ひとしきりそこに混乱が起こった。
 がすぐに混乱は治まって、一隊は粛々と動き出し、林は先へ進んで行った。しかし見れば往来《みち》の一所に、黒い大きな斑点が出来ていた。
 按摩の死骸が転がっているのである。
「お爺さん!」と恐ろしさに女猿廻しは叫んで、老人の腕に縋りついた。それを老人は抱えるよう
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