牛馬を作って、それを生かして耕作させたり、一丈の晒布《さらし》に身を変じて、大名屋敷へ忍び込んだり、上杉謙信の寝所へ忍び、大切な宝刀を盗んだりした、始末の悪い人間なのだよ」
植木師の一隊
「どうしてお偉いお祖師様のことを、飛加藤の亜流などというのでしょう?」
「祖師様のなさるいろいろの業が、忍術使いのまやかし[#「まやかし」に傍点]の業のように、人達の眼に見えるからだよ」
「お爺さん、あなたもそのお祖師様の、信者のお一人なのでごさいますのね」
「ああそうだよ、信者の一人なのだよ」
「お爺さんのお名前、何て仰有《おっしゃ》る[#「仰有《おっしゃ》る」は底本では「有仰《おっしゃ》る」]の?」
「世間の人はわしの事を、飛加藤の亜流だと云っているよ」
「ではもしやお爺さんが、そのお偉いお祖師様では?」
しかし老人は返辞をしないで、優しい意味の深い微笑をした。
三人は先へ進んで行った。
背中の猿は眠ったと見えて、重さが少し加わって来た。それを女猿廻しは揺り上げながら、
(実家《いえ》を出て十年にもなる。流浪から流浪、艱難から艱難、いろいろのお方とも出入りを重ねたが真底から偉いと思
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