#「仰有《おっしゃ》る」は底本では「有仰《おっしゃ》る」]のね?」
「そうなのだよ、そうなのだよ。そんなに根気のよい、そんなに誠心の敬虔のお心を持ったお方なら、私達の持っている心の病気や、体の病気を癒して下されて、幸福な身の上にして下さるかもしれないと、悩みを持ったたくさんの人達が、そのお方の所へ伺って、自分たちの悩みを訴えたのだよ」
「するとそのお方がその人達の悩みを、みんな除去《とりさ》って下すったのね」
「解り易い言葉でお説きなされて、心の病気と体の病気を、みんな除去って下されたのだよ」
「それでだんだん信者が増えて、大きな教団になったと仰有る[#「仰有る」は底本では「有仰る」]のね」
「そうなのだよ。そうなのだよ」
「そのお方どんなお方ですの?」
「わしのような老人なのだよ」
「そのお方の名、何て仰有る[#「仰有る」は底本では「有仰る」]の?」
「信者は祖師《そし》様と呼んでいるよ。……でも反対派の人達は『飛加藤《とびかとう》の亜流』だと云っているよ」
「飛加藤? 飛加藤とは?」
「戦国時代に現われた、心の邪な忍術使いでな、衆人《みんな》の前で牛を呑んで見せたり、観世縒で人間や
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