たことに、心外さこそは覚えたが、殺したことには満足を感じ、彼女は紐を手繰り寄せ、懐中《ふところ》へ納めて様子をうかがった。
 すると小屋から人が出て来るらしく、主税が急いで立ち去った。
 そこであやめ[#「あやめ」に傍点]も空店から走り出し、主税の後を追っかけた。
 主税が自分を両国広小路の、独楽の定席へ訪ねて来たのは、自分が主税の袖へ投げ込んだ独楽の、秘密を聞きたかったに相違ないと、そうあやめ[#「あやめ」に傍点]は思ったので、主税に逢ってそれを話そうと、さてこそ主税を追っかけたのであったが、愛を感じている相手だっただけに、突然近付いて話しかけることが、彼女のような女にも面伏せであり、そこでただ彼女は主税の行く方へ、後から従いて行くばかりであった。そのあげく、お茶の水のここへ来た。その結果がこの有様となった。
「山岸様!」とあやめ[#「あやめ」に傍点]は呼んで、膝の上に乗っている主税の顔へ、また自分の顔を近付けて行った。
「大藪の中から紐を繰り出し、お侍さんの一人を絞め殺しましたのは、このあやめ[#「あやめ」に傍点]でございます。……わたしの差し上げた独楽のことから、このような大難に
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