決心した。と同時にその子独楽が、あやめ[#「あやめ」に傍点]には荷厄介の物に思われて来た。その中あやめ[#「あやめ」に傍点]は縁があって、江戸の両国へ出ることになった。
 そこで浪速から江戸へ来た。するとどうだろう飛田林覚兵衛も、江戸へ追っかけて来たではないか。
 こうして昨日《きのう》の昼席となった。
 舞台で孕独楽を使っていると、間近の桟敷で美貌の若武士が――すなわち山岸主税なのであるが、熱心に芸当を見物していた。ところが同じその桟敷に、飛田林覚兵衛もいて、いかにも子独楽が欲しそうに、眼を据えて見物していた。
(可愛らしいお方)と主税に対しては思い、(小面憎い奴)と覚兵衛に対しては感じ、この二つの心持から、あやめ[#「あやめ」に傍点]は悪戯《いたずら》[#「《いたずら》」は底本では「《いたづら》」]をしてしまったのである。即ち舞台から例の小独楽を、見事に覚兵衛の眼を掠め、主税の袖の中へ投げ込んだのである。
(孕独楽が後家独楽になろうとままよ、妾《わたし》にはあんな子独楽用はない。……これで本当にサバサバしてしまった)
 あやめ[#「あやめ」に傍点]はそう思ったことであった。
 そう
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