密の女めいても見えた。
「山岸様、山岸主税様! お気が付かれたそうな、まア嬉しい! 山岸様々々々!」とあやめ[#「あやめ」に傍点]はいかにも嬉しそうに、自分の顔を主税の顔へ近づけ、情熱的の声で云った。
「それに致しましても何て妾《わたし》は、申し訳のないこといたしましたことか! どうぞお許しなすって下さいまし。……ほんの妾の悪戯《いたずら》[#「《いたずら》」は底本では「《いたづら》」]心から、差しあげた独楽が原因となって、こんな恐ろしいことになるなんて。……それはあの独楽には何か秘密が、――深い秘密のあるということは、妾にも感づいてはおりましたが、でもそのためにあなた様へ、あの独楽を上げたのではごさいません。……ほんの妾の出来心から。……それもあなた様がお可愛らしかったから。……まあ厭な、なんて妾は……」
 これがもし昼間であろうものなら、彼女の頬に赤味が注し、恥らいでその眼が潤んだことを、見てとることが出来たであろう。

   勘兵衛や武士を殺した者は?

 あやめ[#「あやめ」に傍点]があの独楽を手に入れたのは、浪速高津《なにわこうず》の古物商からであった。それも孕独楽《はらみご
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