れているばかりであった。
時がだんだんに経って行った。
やがて、主税は気絶から覚めた。
誰か自分を呼んでいるようである。
そうして、自分の後脳の下に、暖かい柔らかい枕があった。
主税はぼんやり眼を開けて見た。
自分の顔のすぐの真上に、自分の顔へ蔽いかぶさるように、星のような眼と、高い鼻と、薄くはあるが大型の口と、そういう道具の女の顔が、周囲《まわり》を黒の楕円形で仕切って、浮いているのが見て取られた。
お高祖頭巾で顔を包んだ、浪速《なにわ》あやめ[#「あやめ」に傍点]の顔であった。
(あやめ[#「あやめ」に傍点]がどうしてこんな所に?)
気力は恢復してはいなかったが、意識は返っていた主税はこう思って、口に出してそれを云おうとした。
でも言葉は出せなかった。それ程に衰弱しているのであった。眼を開けていることも出来なくなった。そこで彼は眼を閉じた。
そう、主税に膝枕をさせ、介抱している女はあやめ[#「あやめ」に傍点]であった。鼠小紋の小袖に小柳繻子の帯、紫の半襟というその風俗は、女太夫というよりも、町家の若女房という風であり、お高祖頭巾で顔を包んでいるので、謎を持った秘
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