や柏や、榎、桧などの間に立ち雑って、仄白い花を咲かせていた桜の花がひとしきり、花弁《はなびら》を瀧のように零したのは、逃げて行く際に覚兵衛の一味が、それらの木々にぶつかっ[#「ぶつかっ」に傍点]たからであろう。
と、俄然主税の体が、刀をしっかりと握ったまま腐木《くちき》のように地に仆れた。斬られて死んで斃れたのではなかった。
心身まったく疲労《つかれ》果て、気絶をして仆れたのである。
そういう主税の仆れている体へ、降りかかっているのは落花であり、そういう主税の方へ寄って来るのは薄赤い燈の光であった。
そうして薄赤いその燈の光は、昨夜御用地の林の中で、老人と少年と女猿廻しとが、かかげていたところの龕燈の火と、全く同じ光であった。その龕燈の燈が近づいて来る。ではあの老人と少年と、女猿廻しとがその燈と共に、近付いて来るものと解さなければならない。
でもにわかにその龕燈の燈は、大藪の辺りから横に逸れ、やがて大藪の陰へかくれ、ふたたび姿を現わさなかった。
そこで又この境地はひっそりとなり、鋭い切先の一所を、ギラギラ月光に光らせた抜身を、いまだにしっかり握っている主税が、干鱈のように仆
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