、拝み討ちに切り付けた。
「わ、わ、わ、わ――ッ」とその武士は喚いた。脇腹から血を吹き出しているのが、木洩れの月光に黒く見えた。
その武士が足を空ざまにして、丸太ん棒のように仆れた時には、とうに飛び起き、飛び起きざまに引き抜き、引き抜いた瞬間には敵を斬っていた、小野派一刀流では無双の使い手の、山岸主税は返り血を浴びずに、そこに聳えていた大楠木の幹を、背負うようにして立っていた。
が、それにしても何と大勢の武士に、主税は取巻かれていることか!
数間を距てて十数人の人影が、抜身をギラギラ光らせながら、静まり返っているではないか。
(何物だろう?)と主税は思った。
しかし、問さえ発っせられなかった。
前から二人、左右から一人ずつ、四人の武士が殺到して来た。
(死中活!)
主税は躍り出で、前の一人の真向を割り、返す刀で右から来た一人の、肩を胸まで斬り下げた。
とは云え、その次の瞬間には、主税は二本の白刃の下に、身をさらさざるを得なかった。
しかし、辛うじてひとりの武士の、真向へ来た刀を巻き落とした。
でも、もう一人の武士の刀を、左肩に受けなければならなかった。
(やられた!)
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