しかし何たる奇跡か! その武士は刀をポタリと落とし、その手が首の辺りを掻きむしり、前のめりにドッと地上へ倒れた。
勘兵衛の死に態と同じであった。
その時であった側《そば》の大藪の陰から、女の声が聞こえてきた。
「助太刀してあげてよ、ね、助太刀して!」
「参るぞーッ」という怒りの大音が、その時女の声を蔽うたが、一人の武士が大鷲さながらに、主税を目掛けて襲いかかった。
悄然たる太刀音がし、二本の刀が鍔迫り合いとなり、交叉された二本の白刃が、粘りをもって右に左に前に後ろに捻じ合った。
主税は刀の間から、相手の顔を凝視した。
両国橋で逢った浪人武士であった。
解けた独楽の秘密
「やあ汝《おのれ》は!」と主税は叫んだ。
「両国橋で逢った浪人者!」
「そうよ」と浪人も即座に答えた。
「貴殿が手に入れた淀屋の独楽を、譲り受けようと掛け合った者よ。……隠すにもあたらぬ宣《なの》ってやろう、浪速《なにわ》の浪人|飛田林覚兵衛《とんだばやしかくべえ》! ……さてその時拙者は申した、貴殿の命を殺《あや》めても、淀屋の独楽を拙者が取ると! ……その期が今こそめぐって来たのじゃ!」
「淀
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