かり》の隠語を知った時、はじめて秘密が解けるものらしい。
(とすると大変な仕事だわい)
 そう思わざるを得なかった。
 しかし何より主税の心を、憂鬱に抑えているものは、頻々とあるお館の盗難と、猿廻しに変装したあやめ[#「あやめ」に傍点]とが、密接の関係にあることで、今日あやめを小屋へ訪ねたのも、その真相を探ろうためなのであった。
(猿廻しから得た独楽と隠語と、お館の中に内通者ありという、自分の意見とを松浦殿へ、今朝方早く差し上げたが、その結果女の内通者が、お館の中で見付かったかしら?)
 考えながら主税は歩いて行った。
 腐ちた大木が倒れていたり、水溜りに月光が映っていたり、藪の陰から狐らしい獣が、突然走り出て道を遮ったりした。
 不意に女の声が聞こえた。
「あぶない! 気をおつけ! 背後《うしろ》から!」
 瞬間に主税は地へ仆れた。
「あッ」
 その主税の体へ躓《つまず》[#「《つまず》」は底本では「《つまづ》」]き、背後から切り込んで来た一人の武士が、こう叫んで主税のからだ越しにドッとばかりに向こうへ仆れた。
 疾風迅雷も物かわと、二人目の武士が左横から、なお仆れている主税を目掛け
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