た、この二つの意外な事件によって、さすがの彼も心を痛め、この時まであてなく江戸の市中を、さまよい歩いていたのであった。
(荏原屋敷とは何だろう?)
このことが彼の気になっていた。
独楽の隠語の中にもこの字があった。勘兵衛という男もこの言葉を云った。そうしてあやめ[#「あやめ」に傍点]という曲独楽使いも、この屋敷に関係があるらしい。
(荏原郡《えばらごおり》の馬込の郷に、そういう屋敷があるということは、以前チラリと耳にはしたが)
しかし、それとて非常に古い屋敷――大昔から一貫した正しい血統を伝えたところの、珍らしい旧家だということばかりを、人づてに聞いたばかりであった。
(がしかしこうなってみれば、その屋敷の何物かを調べてみよう)
主税はそんなように考えた。
独楽のことも勿論気にかかっていた。
――どれほどあの独楽を廻してみたところで、これまでに現われた隠語以外に、新しい隠語が現われそうにもない。そうしてこれまでの隠語だけでは、何の秘密をも知ることは出来ない。どうやらこれは隠語を隠した独楽は、あれ以外にも幾個《いくつ》かあるらしく、それらの独楽を悉皆《みんな》集めて全部《すっ
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