こうと思ったからであった。
 昼の中に来るのが至当なのであったが、昼の中彼は屋敷へ籠って――お館へは病気を云い立てて休み――例の独楽を廻しに廻し、現われて来る文字を寄せ集め、秘密を知るべく努力した。
 しかし、結果は徒労《むだ》だった。
 というのは、その後に現われて来た文字は「に有りて」という四つの文字と「飛加藤の亜流」という訳のわからない、六つの文字に過ぎなかったからで……
 そこで彼は夕方駕籠を飛ばせて、ここへ訪ねて来たのであった。そうしてあやめ[#「あやめ」に傍点]に逢いたいと言った。
 すると勘兵衛という男が出て来て、極めて曖昧な言葉と態度で、あやめ[#「あやめ」に傍点]は居ないというのである。
「少し尋ねたい仔細《こと》があってな」
 主税はこっちでも曖昧味を現わし、
「それで訪ねて参ったのだが、居ないとあっては止むを得ぬの。どれ、それでは帰るとしようか」
「ま、旦那様ちょっとお待ちなすって」
 勘兵衛の方が周章《あわて》て止めた。
「実は彼女《あいつ》がいなくなったのであっし[#「あっし」に傍点]はすっかり参っていますので。何せ金箱でございますからな。へい大事な太夫なので
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