もんどり》を打ったが、やがて地に坐り手を膝へ置いた。
「ね、ごらん」と老人は云った。
「あの通りじゃ、すっかり癒った。……いや誠心《まごころ》で祈りさえしたら、一本の稲から無数の穂が出て、花を咲かせて実りさえするよ」
 その時猿廻しは編笠を脱いで、恭しく辞儀《おじぎ》をした。
 その猿廻しの顔を見て、主税は思わず、
「あッ」と叫んだ。それは女であるからであった。しかも両国の曲独楽使いの、女太夫のあやめ[#「あやめ」に傍点]であった。

   隠語を解く

 曲独楽使いの浪速《なにわ》あやめ[#「あやめ」に傍点]が、女猿廻しになっている! これは山岸|主税《ちから》にとっては、全く驚異といわざるを得なかった。
 しかも同一のその女が、自分へ二つの独楽をくれた。
 そうしてその独楽には二つながら、秘密らしいものがからまっている。
(よし)と主税は決心した。
(女猿廻しを引っとらえ、秘密の内容を問いただしてやろう)
 そこで、主税は立ち上った。
 するとその瞬間に龕燈が消えて、いままで明るかった反動として、四辺《あたり》がすっかり闇となった。
 主税の眼が闇に慣れて、木洩れの月光だけで林の中
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