の美しいお八重であった。
(これは一体どうしたことだ。こんな深夜にこんな所に、お八重などがいようとは?)
夢に夢見る心持で、頼母は一刹那ぼんやりしてしまった。
しかし、老人の膝の側《そば》に、龕燈が一個《ひとつ》置いてあり、その龕燈の光に照らされ、淀屋の独楽に相違ない独楽が、地上に廻っているのを眼に入れると、頼母は俄然正気づいた。
(独楽がある! 淀屋の独楽が! 三つ目の独楽に相違ない!)
この時老人が話し出した。
「ね、この独楽へ現われる文字は『真昼頃』という三つの文字と『背後《うしろ》北、左は東、右は西なり』という、十一|文字《もじ》の外《ほか》にはない。……もう一つの独楽に現われて来るところの『見る日は南』という五つの文字へ、この独楽へ現われた文字を差し加えると「真昼頃、見る日は南、背後北、左は東、右は西なり」という、一首の和歌になるのだよ。……そうしてこの和歌は古歌の一つで、方角を教えた和歌なのさ。広野か海などをさまよって、不幸にも方角を失った際、それが真昼であったなら、先ず太陽を見るがよい。太陽は南にかかっているであろう。だから背後は北にあたり、左は東、右は西にあたる。
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