ていたが、その植込の葉の陰から、何物か躍り出して宙を飛び、お八重の肩へ飛び移った。
「あれッ」とさすがに驚いて、お八重は悲鳴をあげ飛び上ったが、そのお八重の足許の地面へ、お八重の肩から飛び下りた物が、赤いちゃんちゃんこ[#「ちゃんちゃんこ」に傍点]を着た小猿だったので、お八重は驚きを繰り返して叫んだ。
「まア、お前は藤八じゃアないかえ!」
さよう、それはお葉の飼猿、お八重もよく知っている藤八猿であった。
奇怪な邂逅
藤八猿が居るからには、持主のお葉がいなければならない。――とお八重はそう思った。お葉に逢って訊ねたならば、恋人主税のその後の消息《ようす》を、耳にすることが出来るかもしれない。――
(このお屋敷の土塀を越して、藤八猿は来たはずだった!)
裾にまつわる藤八猿を、自由に裾にまつわらせながら、お八重は荏原屋敷の土塀を見上げた。土塀を高くぬきん出て、繁った植込の枝や葉が建物の姿を隠している。
(人声や物音がするようだが?)
(何か間違いでも起こったのかしら?)
(それとも妾《わたし》の空耳かしら?)
なおもお八重は聞き澄ました。物音は間断なく聞こえてくる。
主税
前へ
次へ
全179ページ中158ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング