しかし、廊下には燈火はなく、堅く閉ざされてあるはずの雨戸の一枚が、細目に開けられてあるばかりであった。
 二人はその隙から戸外《そと》を見た。
 三階造りの頂上よりも高く、特殊に建てられてある閉扉の館の、高い高い二階から眺められる夜景は、随分美しいものであった。主屋をはじめ諸々の建物や、おおよその庭木は眼の下にあった。土塀なども勿論眼の下にあった。月は澄みきった空に漂い、その光は物象《もののかたち》を清く蒼白く、神々しい姿に照らしていた。

   庭上の人影

 間もなく死ぬ運命の二人ではあったが、この美しい夜の景色には、うっとりとせざるを得なかった。
 ふいにあやめ[#「あやめ」に傍点]が驚喜の声をあげた。
「まア梯子が! ここに梯子が!」
 いかさま廊下の欄干ごしに、一筋の梯子が懸かっていて、それが地にまで達していた。
 それはあたかも二人の者に対して、この梯子をつたわって逃げ出すがよいと、そう教えてでもいるようであった。
「いかにも梯子が! ……天の与え! ……それにしても何者がこのようなことを!」
 主税も驚喜の声で叫んだ。
「不思議といえば不思議千万! ……いやいや不思議
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