といえばこればかりではない! ……閉扉《あけず》の館の戸が開いたのも、燈火の光が現われて、われわれを二階へみちびいたのも、釘づけにされてある館の雨戸が、このように一枚だけ外されてあるのも、一切ことごとく不思議でござる」
「きっと誰かが……お父様の霊が、……わたしたちの運命をお憐れみ下されて、それで様々の不思議を現わし、救って下さるのでございましょうよ。……さあ主税様、この梯子をつたわり、ともかくも戸外へ! ともかくも戸外へ!」
「まず其方《そなた》から。あやめ[#「あやめ」に傍点]よ先に!」
「あい」とあやめ[#「あやめ」に傍点]は褄をかかげ、梯子の桟へ足をかけた。
「あッ、しばらく、あやめ[#「あやめ」に傍点]よお待ち! ……何者かこっちへ! 何者かこっちへ!」
 見れば月光が蒼白く明るい、眼の前の庭を二つの人影が、組みつほぐれつ、追いつ追われつしながら、梯子の裾の方へ走って来ていた。
 二人は素早く雨戸の陰へかくれ、顔だけ出して窺った。
 夜眼ではあり遠眼だったので、庭上の人影の何者であるかが、主税にもあやめ[#「あやめ」に傍点]にもわからなかったが、でもそれはお葉と松女なのであっ
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