も知られるほどに、顔色を変え胴顫いをし、
「ご勘弁を、平に、ご勘弁を!」
「覚兵衛、勘兵衛!」と頼母は叫んだ。
「この館の戸を破れ!」
「いけねえ、殿様ア――ッ」と勘兵衛は喚いた。
「そいつア不可《いけ》ねえ! あっしゃア[#「あっしゃア」に傍点]恐い! ……先代の怨みの籠っている館だ! ……あっしも[#「あっしも」に傍点]手伝ってやったん[#「やったん」に傍点]ですからねえ!」
「臆病者揃いめ、汝《おのれ》らには頼まぬ! ……覚兵衛、館の戸を破れ!」
 飛田林覚兵衛はその声に応じ、閉扉の館の戸へ躍りかかった。
 が、戸は容易に開かなかった。
 先刻《さっき》は内側から自然と開いて、主税とあやめ[#「あやめ」に傍点]とを飲み込んだ戸が、今は容易に開かないのである。
「方々お手伝い下されい」
 覚兵衛はそう声をかけた。
 覆面をしている頼母の家来たちは、すぐに覚兵衛に手を貸して、館の戸を破りだした。
 この物音を耳にした時、屋内の闇に包まれていた主税とあやめ[#「あやめ」に傍点]とはハッとなった。
「主税様」とあやめ[#「あやめ」に傍点]は云った。
「頼母や主馬之進たちが戸を破って……」
前へ 次へ
全179ページ中144ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング