うだよわしもそう思う。が、三つ目の淀屋の独楽が、果たしてどこにあるものやら、とんとわしには解らぬのでのう」
 三人はここで黙ってしまった。
 屋敷の構内に古池でもあって、そこに鷭《ばん》でも住んでいるのだろう、その啼声と羽搏きとが聞こえた。
 と、ふいにこの時|茂《しげみ》の陰から、「誰だ!」という誰何の声が聞こえた。
 三人はハッとして顔を見合わせた。と、すぐに悲鳴が聞こえ、つづいて物の仆れる音がした。三人は思わず立ち上った。
 するとこの亭を囲繞《とりま》いている木々の向こうから、この亭の人々を警護していた、飛田林覚兵衛と勘兵衛との声が、狼狽したらしく聞こえてきた。

   母娘は逢ったが

「曲者だ!」
「追え!」
「それ向こうへ逃げたぞ!」
「斬られたのは近藤氏じゃ」
 こんな声が聞こえてきた。そうして覚兵衛と勘兵衛とが、閉扉《あけず》の館の方角をさして、走って行く足音が聞こえてきた。
「行ってみよう」と頼母は云って、榻から立ち上って歩き出した。
「それでは私も」と主馬之進も云って兄に続いて亭を出た。
 亭には一人松女だけが残った。
 松女は寂しそうに卓へ倚り、両の肘を卓の上へ
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