のせ、その上へ顔をうずめるようにし、何やら物思いに耽っていた。燃え尽きかけている蝋燭の燈が、白い細い頸《うなじ》の辺りへ、琥珀色の光を投げているのが、妙にこの女を佗しく見せた。
 といつの間に現われたものか、その松女のすぐの背後《うしろ》に、妖怪《もののけ》のような女の姿が、朦朧として佇んでいた。
 猿廻し姿のお葉であった。じっと松女を見詰めている。その様子が何となく松女を狙い、襲おうとでもしているような様子で……
 と、不意にお葉の片手が上り、松女の肩を抑えたかと思うと、
「お母様!」と忍び音に云った。
 松女はひどく驚いたらしく、顔を上げると、
「誰だえ※[#感嘆符疑問符、1−8−78]」と訊いた。
「お母様、わたしでございます」
「お母様だって? このわたしを! まアまアまア失礼な! 見ればみすぼらしい猿廻しらしいが、夜ふけに無断にこんな所へ来て、わたしに向かってお母様などと! ……怪しいお人だ、人を呼ぼうか!」
「お母様、お久しぶりねえ」
「…………」
「お別れしたのは十年前の、雪の積もった日でございましたが、……お母様もお変わりなさいましたこと。……でも妾《わたし》は、このお
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