愛して!)
 カッと[#「カッと」は底本では「カツと」]胸の奥の燃えるのを感じ、全身がにわかに汗ばむのを覚えた。
(いっそあやめ[#「あやめ」に傍点]と一緒になろうか)
 悲しみを含んだ甘い感情が、主税の心をひたひたと浸した。
 あやめ[#「あやめ」に傍点]は涙の眼を見張って、主税の顔を見詰めている。
 涙の面紗《ヴェール》を通して見えているものは、畳の上の主税の顔であった。男らしい端麗な顔であった。わけても誘惑的に見えているものは、潤いを持ったふくよかな口であった。
 いつか夕陽が消えてしまって、野は黄昏《たそがれ》に入りかけていた。少し開いている障子の隙から、その黄昏の微光が、部屋の中へ入り込んで来て、部屋は雀色に仄めいて見え、その中にいる若い男女を、悩ましい艶かしい塑像のように見せた。
 横倒しになっている主税の足許に、その縁を白く微光《ひか》らせながら、淀屋の独楽が転がっている。
 と、その独楽を睨みながら、障子の外の縁側の方へ、生垣の裾から這い寄って来る、蟇《ひき》のような男があった。三下悪党の勘兵衛であった。

   二つ目の独楽を持って

 田安屋敷の乱闘の際に、あやめ[
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