とであろう。そんなところへうかうか帰って行って、頼母の奸悪を申し立てたところで、信じられようはずはない。切腹かそれとも打ち首にされよう。これは分かりきった話であった。
そこで主税は自然の成り行きとして、浪人の身の上になってしまった。そうしてこれも自然の成り行きとして、あやめ[#「あやめ」に傍点]と一緒に住むようになった。
「おりを見て荏原《えばら》屋敷へ忍び入り、お実父《とう》様の敵《かたき》を討たなければ……」
あやめ[#「あやめ」に傍点]としてはこういう心持から、又、一方主税としては、「淀屋の財宝と荏原屋敷とは、深い関係があるらしいから、探ってみよう」という心持から、二人合意で荏原屋敷の見える、ここの農家の離家《はなれ》を借りて、夫婦のように住居《すまい》して来たのであった。
しかるに二人して住んでいる間も、主税に絶えず思い出されることは、云いかわした恋人お八重のことで、従って自ずとそれが口へ出た。そうでない時には淀屋の独楽を廻し、これまでに現われ出た文字以外の文字が、なお現われはしまいかと調べることであった。
しかしもちろん主税としては、あやめ[#「あやめ」に傍点]の寄せ
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