傍点]を、はじめてお打ち明けいたしましたわねえ……そうして今日は心の怨みを! ……でも、この次には、三度目には? ……いえいえ三度目こそは妾の方が、貴郎さまに介抱されて……それこそ本望! 女の本望! ……」
 涙が主税の顔へ落ちた。しかし主税は眼を閉じていた。
(無理はない)と彼は思った。
(たとえば蛇の生殺しのような、そんな境遇に置いているのだからなあ)
 一月前のことである、松浦頼母の屋敷の乱闘で、云いかわしたお八重とは別れ別れとなった。あやめ[#「あやめ」に傍点]の妹だという女猿廻しの、お葉という娘とも別れ別れとなった。殺されたか捕らえられたか、それともうまく遁れることが出来て、どこかに安全に住んでいるか? それさえいまだに不明であった。

   三下悪党

 主税《ちから》とあやめ[#「あやめ」に傍点]ばかりは幸福《しあわせ》にも、二人連れ立って遁れることが出来た。
 しかし主税は田安家お長屋へ、帰って行くことは出来なかった。いずれ頼母《たのも》があの夜の中に、田安中納言様へ自分のことを、お八重《やえ》を奪って逃げた不所存者、お館を騒がした狼藉者として、讒誣《ざんぶ》中傷したこ
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