した時、
「居たぞ!」「捕らえろ!」「斬ってしまえ!」と言う、荒々しい男の声が聞こえ、瞬間数人の武士が殺到して来た。
(出たな!)と主税は刹那に感じ、真先に切り込んで来た武士を反《かわ》し、横から切り込んで来た武士の鳩尾《みぞおち》へ、拳で一つあてみ[#「あてみ」に傍点]をくれ、この勢いに驚いて、三人の武士が後へ退いた隙に、はじめて刀を引っこ抜き、正眼に構えて身を固めた。
 すると、その時一人の武士が、主税を透かして見るようにしたが、
「や、貴殿は山岸氏ではないか」と驚いたように声をかけた。
 主税も驚いて透かして見たが、
「何だ貴公、鷲見《すみ》ではないか」
「さようさよう鷲見|与四郎《よしろう》じゃ」
 それは同じ田安家の家臣で、主税とは友人の関係にある、近習役の鷲見与四郎であった。
 見ればその他の武士たちも、ことごとく同家中の同僚であった。
 主税は唖然として眉をひそめたが、
「呆れた話じゃ、どうしたというのだ」
「申し訳ない、人違いなのじゃ」
 言い言い与四郎は小鬢を掻いた。
「承知の通りのお館の盗難、そこで拙者ら相談いたし、盗人をひっ捕らえようといたしてな、今夜もお館を中心
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