にして、四方を見廻っていたところ、猿廻しめに邂逅いたした」
「猿廻し? 猿廻しとは?」
「長屋の女小供の噂によれば、この頃若い猿廻しめが、しげしげお長屋へやって来て、猿を廻して銭を乞うそうじゃ」
「そこで、怪しいと認めたのじゃな」
「いかにも、怪しいと認めたのじゃ。……その怪しい猿廻しめに、ついそこで逢ったので、ひっ捕らえようとしたところ、逃げ出しおって行方不明よ」
「なに逃げ出した? それなら怪しい」
「……そこへ貴殿が土塀を巡って、突然姿をあらわしたので……」
「猿まわしと見誤ったというのか?」
「その通りじゃ、いやはやどうも」
「拙者猿は持っていない」
「御意で、いやはや、アッハッハッ」
「そそっかしいにも程があるな」
「程があるとも、一言もない、怪我なかったが幸いじゃ」
「すんでに貴公を斬るところだった。これから貴公たちどうするつもりじゃ」
「業腹[#「業腹」は底本では「剛腹」]じゃ。このままではのう。……そこでこの辺りをもう一度探して……」
「人違いをして叩っ切られるか」
「まさか、そうそうは、アッハッハッ。……貴殿も一緒に探さぬかな」
「厭なことじゃ。ご免蒙ろう。……今日拙
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