て死んでいる側《そば》に、二人の腰元が当惑し恐怖し泣きぬれて立っていた。
第二の犠牲
手折った桜の枝が地に落ちていて、花が屍《しがい》の辺りに散り敷いているのが、憐れさの風情を添えていた。
中納言家は傷《いた》わしそうに、楓《かえで》の死骸を見下ろしていたが、
「玄達《げんたつ》を呼んでともかくも手当てを」
こう頼母に囁くように云い、四辺《あたり》を仔細に見廻したが、ふと審しそうに呟かれた。
「この頃に庭を手入れしたと見えるな」
頼母は庭番の源兵衛へ、奥医師の玄達を連れて来るように吩咐《いいつ》け、それから中納言家へ頭を下げ、
「数日前に庭師を入れまして、樹木の植込み手入れ刈込み、庭石の置き換えなどいたさせました」
「そうらしいの、様子が変わっている」
改めて中納言家は四辺を見廻された。
桜の老樹や若木に雑って、棕櫚だの梅だの松だの楓だの、竹だの青桐だのが、趣深く、布置整然と植込まれてい、その間に珍奇な庭石が、春の陽に面を照らしながら、暖かそうに据えられてあった。
ずっとあなたに椿の林があって、その中に亭が立っていた。
間もなく幾人かの侍臣と共に、奥医師玄達が小走って来た。大奥の腰元や老女たちも、その後から狼狽《あわて》て走って来た。
玄達はすぐに死骸の側《そば》へかがみ仔細に死骸を調べ出した。
「駄目か?」と中納言家は小声で訊かれた。
「全く絶望にござります」
玄達も小声で答えた。
「死因は何か?」
「さあその儀――いまだ不明にござりまする。……腹中の食物など調べましたなら……」
「では、外傷らしいものはないのだな」
「はい、いささかも……外傷らしいものは」
「ともかくも死骸を奥へ運んで、外科医宗沢とも相談し、是非死因を確かめるよう」
「かしこまりましてござります」
やがて楓の死骸は侍臣たちによって、館の方へ運ばれた。
「不思議だのう」と呟きながら、なお中納言家は佇んでおられた。
その間には侍臣や腰元たちは、楓を殺した敵らしいものが、どこかその辺りに隠れていないかと、それを探そうとでもするかのように、木立の間や岩の陰や、椿の林などへ分け入った。
広いといっても庭であり、植込みが繁っているといっても、たかが庭の植込みであって、怪しい者など隠れていようものなら、すぐにも発見されなければならなかった。
何者も隠れていなかったらしく、
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