思った。
あやめ[#「あやめ」に傍点]はあやめ[#「あやめ」に傍点]で又思った。
(姉妹《きょうだい》二人が揃ったのだから、すぐにも荏原屋敷へ乗り込んで行って、主馬之進を殺して復讐したい。お父様の怨みを晴らしたい)
双方の祈願《ねがい》が一緒になって、あやめ[#「あやめ」に傍点]とお葉と主税とは、この夜荏原屋敷へ忍び込んだのであった。
さて三人忍び込んでみれば、天の助けというのでもあろうか、頼母がい、勘兵衛がいた。
(よし、それでは次々に、機をみて討って取ってやろう)
木陰に隠れて機会《おり》を待った。
と、構え内を警護していた、頼母の家来の覆面武士の一人に、見現わされて誰何された。主税はその覆面武士を、一刀の下に斬り仆した。と、大勢がこの方面へ走って来た。主税はあやめ[#「あやめ」に傍点]を引っ抱えて、木立の陰へ隠れたのであるが、どうしたのかお葉は一人離れて、亭の方へ忍んで行った。声をかけて止めようと思ったが、声をあげたら敵の者共に、隠れ場所を知られる不安があった。そこで二人は無言のまま見過ごし、ここに忍んでいるのであった。……
二人の眼前にみえているものは、主税に斬り仆された覆面武士を囲んで、同僚の三人の覆面武士と、頼母と主馬之進と飛田林覚兵衛と、絞殺したはずの勘兵衛とが、佇んでいる姿であった。
飛び出していって斬ってかかることは、二人にとっては何でもなかったが、敵は大勢であり味方は二人、返り討ちに遇う心配があった。機《おり》を見て別々に一人々々、討って取らなければならなかった。
二人は呼吸《いき》を呑み潜んでいた。
閉扉の館
「曲者を探せ!」という烈しい怒声が、頼母の口からほとばしったのは、それから間もなくのことであった。
俄然武士たちは四方へ散った。そして二人の覆面武士が主税たちの方へ小走って来た。
「居たーッ」と一人の覆面武士が叫んだ。
だがもうその次の瞬間には、躍り上った主税によって、斬り仆されてノタウッていた。
「汝《おのれ》!」ともう一人の覆面武士が、主税を目掛けて斬り込んで来た。
そこを横からあやめ[#「あやめ」に傍点]が突いた。
その武士の仆れるのを後に見捨て、
「主税様、こっちへ」と主税の手を引き、あやめ[#「あやめ」に傍点]は木立をくぐって走った。……
案内を知っている自分の屋敷の、木立や茂や築山などの多い
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