話ではいけない、行って来ましょう。行って店員を引っ張って来ましょう。信用のある金属商の、鑑定に達した店員をね」
彼女は書斎を飛び出した。電話をかける声がした。タクシを呼んでいるらしい。
間もなくタクシがやって来た。
彼女は乗って出て行った。
私は黙然と腰掛けていた。
「彼女はひょっと[#「ひょっと」に傍点]すると狂人《きちがい》になるぞ」
私はしばらく待っていた。
「この家には用はないはずだ。一応の忠告! それだけでいいのだ。聞くか聞かないかは彼女にある。……贋金であろうと本物であろうと、私には大して関係はない」
で、私は下宿へ帰った。
数日経った新聞に、次のような広告が掲げてあった。
「銀二十九枚の送主に告げる。貴女は非常に聡明であった。イスカリオテのユダを残し、後を郵送してよこしたことは、我等をして首肯せしめ微笑せしめた。安心せよ。危害を加えず」
「ついに彼女は郵送したと見える。イスカリオテのユダの付いた、一枚の貨幣を送らなかったのは、以前売ったからに相違ない」
とにかく私はホッとした。
「だが彼女は貧乏になった。もうあの家には住めないかもしれない」
ある日私は
前へ
次へ
全81ページ中72ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
国枝 史郎 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング