い方であった。それから私をからかい[#「からかい」に傍点]出した。
「無理はないわね、貴郎としては。そうら出入りの呉服屋さん、ちょっと相場で儲けたと云って、白金《プラチナ》の腕時計を巻いて来たらニッケルにしちゃアいい艶だって、こんな事を云ったじゃアありませんか、そうかと思うと妾の時計、そりゃあニッケルとしては類なしで、金時計より高価《たかい》んですけれど、こいつア素晴らしい白金だって、大騒ぎをしたじゃアありませんか。白金だか銀だか解《わか》らないのは[#「解《わか》らないのは」は底本では「解《わか》からないのは」]、ちっとも不思議じゃアありませんわね」

13[#「13」は縦中横]

「何だ莫迦め!」と呶鳴り付けた。
「そんな事を云い出して何になるんだ」
 だが彼女はますます笑い、ますます私をからかった[#「からかった」に傍点]。
「貴郎《あなた》、ペテンに掛かったのよ。ええそうとしか思われないわ。でもどうしてこんなペテンに? いいえさ佐伯とかいう大詐欺師が、どうしてこんな変なペテンに、引っかけなければならなかったんでしょう? 儲かることでもないのにね。かえって大変な損をするのに。これ
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