いるエーテルの建築! それを破壊する電子の群れ! そんなものが私には、「見える」のであった。だがまだ私は霊媒《ミジャム》ではなかった。しかし早晩なるだろう。他界の消息、黄泉の通信、幽霊達の訴言《うったえごと》、そういうものだって知ることが出来よう。
 物を書きながら苦しむことがあった。後から後からと空想が、駈け足で追っかけて来るからであった。文字にして原稿紙へ書き取る暇さえ、ゆっくり与えてはくれないからであった。そんな時私はゴロリと寝た。動悸の烈しい心臓を抑え、空想の駈け抜けるのを待つのであった。
 町を歩きながら立ち止まり、電信柱へ倚りかかり、湧き上って来る空想を、鼻紙の上へ書いたりした。
 ある夜空想が湧き上って来た。折悪しく鼻紙を持っていなかった。一軒の商店の板壁へ、万年筆で書き付けた。そうして翌朝出かけて行き、写し取って来たような事さえあった。
 今に私は往来の人の、背中へ紙をおっ付けて、そこで書くようになるかもしれない。
 創作力に充満《みちみち》ていた。それをこんなつまらない[#「つまらない」に傍点]ことで、破壊されるのは厭だった。
 急に妻は変に笑った。ゾッとするような笑
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