大詐欺師
佐伯準一郎捕縛さる
[#ここで字下げ終わり]
 勿論特号活字であった。
 欧米、南洋、支那、近東、こういう方面を舞台とし、十数年間組織的詐欺を、働いていたということや、日本知名の富豪紳士にも、被害者があるということや、数ヶ月前名古屋に入り込み、ために司法部の活動となり、捜索をしていたということや、昨夜何者か密告者があって、始めて所在を知ったということや、家宅捜索をした所、贋物の骨董があったばかりで金目の物のなかったということや、書生や女中は新米で、様子を知らなかったということや、××町の屋敷へは、ほんの最近に移って来たので、まだ近所への交際《つきあい》さえ、はじめていなかったということや、最後に至って別標題を附け、国際的陰謀の秘密結社に、関係あるらしいということなどが、三段に渡って記されてあった。
 私と妻とは眼を見合わせた。どうしていいか解《わか》らなかった。白金《プラチナ》に違いないと思われる、銀三十枚を携えて、警察へ訴え出ることが、とるべき至当の手段ではあったが、そのため同類と疑われ、種々《いろいろ》うるさい取り調べを受け、新聞などへ書かれることが、どうにも不愉快でなら
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